
- 永井 良和
- 橋爪 紳也
- 紀伊國屋書店
極めて客観的な野球史です
この本は、評価は星5つではなく「6つ」をつけたい名著である。 帯に「巨人中心の野球史では見えないものがある!」と書いてあるのですが、歴史というのは記述者の立場によって大きく変わるものであり、そして見解がとかく偏るもの。この本は南海ホークス、とりわけ大阪スタジアムに焦点が当てられているものの、プロ野球全体の流れを客観的に論述している点でとても優れていると思います。 また企業と球団がどのような経緯で関わっていったのかがわかりやすく書かれているので、球団経営の本としてもGOODです。また随所に参考文献を記載し、それについての解説もあるのもすばらしい。 これらのことから、この本は単なる娯楽的な書物でなく、きちんとした歴史書であると断言できる。もし大学などで日本野球界の歴史に関する講義を開講するとすれば、この本が教科書もしくは参考図書となることは必死であろう。
「プロヤキュウ」っていったい何?
今年のプロ野球はいきなり球団合併の話が持ち上がり、終盤には日本シリーズすらストで中止になりかねないという異常な事態に陥った。ふだんは表に出ない多くの面々が右へ左へとプロ野球を引きずり回し、「プロヤキュウ」っていったい何?と思われた方も少なくないと思う。 この本は、はからずもそんな素朴な疑問に答えてくれる。日本のプロ野球がどんな形で始まったか、なぜ読売が中心になったか、なぜパ・リーグは人気でセ・リーグに遅れをとったか、国民にとってなぜ野球は「テレビで見るもの」になったか、などなど。 これらの疑問に対し、著者は独自の詳細な調査を行い、冷静な観点から明快に答えている。一読すればプロ野球の正体が見えてくると思う。内容は南海やパ・リーグを大きく超えてプロ野球全体から学生野球、電鉄会社、新聞社にまで及ぶ労作だといえる。この本が今年のプロ野球再編問題以前に出版されたところに私は大きな価値を感じているが、いかがだろう。
好奇心をくすぐられる。懐かしくなる。
昭和という時代に南海ホークスというプロ野球球団があり、大阪球場という都会のど真ん中の野球場で試合をしていた。その南海ホークスと、ホークスが所属していたパシフィック・リーグの歴史を軸に、日本の野球の歴史・文化を表したものだ。 プロ野球の歴史を語るのに、ある球団やある選手を軸にして語る方法はよくあると思う。その場合多くは、ジャイアンツであったり長嶋選手であったり、つねに脚光を浴びてきた球団・選手に即したものが多かった。一方の南海ホークスといえば、「人気のセ」に対しての「実力のパ」という、つまりは人気のないほうのリーグに所属していた一球団である。 でも、だからこその趣がある。どちらかというと人気で劣る球団やリーグに焦点を当てることで、読者のちょっとマニアックな知識欲をくすぐっている。読者の年代はさまざまだろうけれど、まだ大阪球場で試合をしていた南海ホークスを、おぼろげでも覚えている人は多いだろう。この本は、そうした読者のかすかな記憶を甦らせて、単純に懐かしい気持ちにさせる。 熱心なプロ野球ファンの中には、昔の選手の名前をいろいろと出し合うだけでも話が盛り上がったり、あの時あの場所で(試合の内外含め)こんなことがあったと思い出して懐かしんだり、そうした部分に興味をもつ人がけっこう多いと思う。この本には、そんな野球ファンの心をしっかりつかむような材料がたくさん詰め込まれている。 過去の資料を綿密に調べ上げているので、筆致の印象は客観的である。著者のふたりはホークスのファンでありパ・リーグのファンなのだろうが、主観を排して冷静に好きなチームやリーグの歴史を紹介しようとつとめている。このスタンスがとても心地よい。読者は古い選手の名前や出来事を出されれば、読者自身の心の中で一人で盛り上がるものだろうから。 南海ホークスは昭和という時代が終わろうとしていたとき、ダイエーという会社に身売りをし、福岡へと移っていった。プロ野球の身売りは、「戦力が低下しチームは低迷→人々が球場に行かなくなる→球団経営が厳しくなる」といったような状況だからこそ起こるものであり、そこにはつねに物哀しさがある。この本でも最後に近づくにつれて、球場から客が離れていく状況や、閑古鳥球団を応援する人々の(自虐的でさえある)状況が表されていて、哀愁が漂う。
大阪球場があったころ
副題の「文化史」という言葉は看板に偽りなし、これは立派な社会史・文化史の本だった。まあ題材は野球でなくともいいのだが、とにかくもプロ野球には日本の企業や社会や人のあり方の移り変わりについて考えるヒントがたくさん転がっている。流し読みするだけでもおすすめ。興味深いエピソードに満ちている。「大リーグは日本の野球よりすばらしい」とか「外野スタンドで踊っているヤツは本当の野球ファンじゃない」なんて決めつけずに、目の前の状況がどのようにして成立したのかを考えてみたい。空調の効いたドーム球場にいるとついつい忘れそうになる、懐かしの西宮球場や大阪球場、藤井寺球場に思いをはせながら。この本はそういうところに引き戻してくれる。別にノスタルジーに浸って現状を否定したいわけではない。今年パリーグは観客動員1000万人を突破し、記録を更新した。大リーグや阪神の人気は真実だけれど、こうしたブームをマスコミが煽っている影でパリーグの観客は増えている。おっちゃんばかりで閑古鳥が鳴いていた大阪球場より若い女性で一杯の今の福岡ドームの方がやはりいいと思う。二日酔いで遊郭から球場に直行するより、科学的トレーニングを丹念におこなって試合に臨む方がいいだろう。そこで失われたものに思いをはせても、今を嘆くのはやめておく。本書を読んだおかげでそんなことをぼんやり考えていたら小久保選手の無償トレードのニュースが飛び込んできて唖然とした。チームの核となる選手をああも簡単に放り出すなんて異常事態に違いない。球場も選手の年俸も昔よりはるかに大きくなった。一つの企業が広告塔として球団を持つにはあまりにも大きくなりすぎた。あの頃にはもう戻れない。ではどうすればいいのか。この本にそこまでを求めるのは酷だろう。この本は「小久保選手の怪我が早く直ることを祈りつつ」終わる。せっかくホークスが日本一になったのに、なんという悲劇だろう。
よく調べ上げた研究書です・・・
日本における野球場開発の歴史については、興味深い記述が多々見られました。が、少々一面的な捉え方もあったかな?後半からは、私と同年代の大阪在住・南海ホークスファンの半生記、という感じがします。私的には、ラッパやメガホンを騒音だと思っている口なので、相容れない意見も多かったのですが、「よく調べたものだ」という感嘆と、「あの頃は確かにこんな風だったなぁ」という郷愁を憶えたので、星4つはいくと思います。野球好きならあっという間に読み終わるでしょう。
<<前のレビュー | 1 | 2 | 3 | 次のレビュー>>
- あの頃こんな球場があった―昭和プロ野球秘史
- 佐野 正幸 / 草思社
- ホークスの70年 惜別と再会の球譜
- 永井 良和 / ソフトバンククリエイティブ
- 昭和プロ野球を彩った「球場」物語 (宝島SUGOI文庫)
- 佐野 正幸 / 宝島社
- 昭和十七年の夏 幻の甲子園―戦時下の球児たち
- 早坂 隆 / 文藝春秋
- 野球小僧remix プロ野球80年代大事典 (白夜ムック Vol. 369)
- 野球小僧編集部 / 白夜書房
- HAWKS the 70th―ホークス栄光の軌跡
- ベースボールマガジン社
- 街場の大阪論 (新潮文庫)
- 江 弘毅 / 新潮社
- 国鉄スワローズ1950‐1964―400勝投手と愛すべき万年Bクラス球団 (交通新聞社新書)
- 堤 哲 / 交通新聞社
- 森繁さんの長い影
- 小林 信彦 / 文藝春秋
- 新版 1988年10・19の真実―近鉄-ロッテ ダブルヘッダー 涙の川崎伝説
- 佐野 正幸 / 主婦の友社